トヨタの業務提携拡大路線はやがてクルマをつまらなくする予兆!?
- 筆者: 渡辺 陽一郎
活発化する企業間の業務提携
今の自動車産業は100年に1度の変革期といわれ、技術面の競争も激化している。技術の焦点としては、二酸化炭素の排出量と化石燃料の使用を抑える電動化技術、安全性や高齢化対策となって移動の効率も高められる自動運転技術、通信機能のコネクティッド、複数のユーザーがクルマを共同で使うシェアリングなどがある。
かつてこれらの技術はそれぞれ独立していたが、今は互いが密接に関係し合う。特に自動運転やシェアリングは、通信機能がなければ成立しない。自動運転ではAI(人工知能)も不可欠だ。最先端技術の進化がそろってきたことで、100年に1度の変革期が訪れる。
これらの技術的課題に対応するには、膨大な人材と時間を含めたコストを要する。部品やユニットを供給するサプライヤー(下請メーカー)があるとはいえ、自動車メーカーが独立して開発していたら、手に余って時代の流れに追い付かない。そこで最近は企業間の業務提携が活発化している。
「市場の拡大」から「競争力の強化」に目的が変化
例えばトヨタはダイハツを完全子会社にしており、日野についても株式の過半数を取得して子会社とした。スバルの筆頭株主でもあり、マツダとも資本提携を結ぶ。スズキとも提携を進めているから、乗用車を手掛ける8メーカーの内、トヨタを中核に5メーカーが提携している状態だ。
そうなると残りは互いに提携関係にある日産と三菱、今のところ日本の自動車メーカーとは手を組まないホンダだけになる。
少し前の常識では、日本の自動車メーカー同士が提携しても、メリットは乏しいといわれた。日本メーカーがターゲットにする市場は、各社ともに北米や日本国内で、互いに重複するためだ。提携するなら日本と欧州(例えば日産とルノー)という具合に、提携によってカバーできる市場を広げられる必要があった。
それが最近は、1960年代のトヨタとダイハツ、トヨタと日野、日産とプリンスのように、国内メーカー同士の提携が再び活発化している。それだけ各メーカーの技術開発に向けた負担が重くなっているためだ。以前の日本と欧州メーカーなどの提携は「市場の拡大」を目的にしたが、今は「競争力の強化」になって目的が違う。
トヨタとソフトバンクの提携合意
電気自動車については、トヨタ/マツダ/デンソーが「EV C.A.Spirit」を立ち上げ、ダイハツ/スバル/スズキ/日野/いすゞ/ヤマハも加えて開発に取り組む。
直近ではトヨタとソフトバンクの提携合意も行った。新会社のモネ・テクノロジーズを設立して、移動や物流に関する新しいサービスを開始する。
電気自動車の開発や環境対応であれば、自動車メーカーや電装部品メーカーだけでも相当な技術領域をカバーできるが、コネクティッドやシェアリングを含めた新しいサービスは難しい。ハードウェアはトヨタを中核とした自動車技術で造り上げ、コネクティッドやシェアリングなどのソフトウェアは、ソフトバンクと綿密に構築していく。
つまりクルマの分野も、携帯電話やパソコンと同様、車両本体のハードウェアだけでは立ち行かない。例えば昔の地図が、1990年頃からカーナビに変わり、今では通信機能も併用して正確な道案内を行ったり安全運転を支援するのと同様だ。
単一メーカーだけでは成り立ちにくい商品でも、複数のメーカーが提携すれば実現しやすい
今後はさらにソフトウェアが重要になり、もはや自動車業界だけでは対応できない。ソフトバンクのような専門かつ多角的な企業との連携が不可欠になった。
今の状態は、冷蔵庫の食材と手持ちの調味料だけを使って、いかにさまざまな美味しい食事を作るかという話に似ている。コストはあまり費やさず、企業を超えた組み合わせを工夫することで、大きなメリットを得る考え方だ。
クルマの制御も同じことに取り組む。今のクルマには緊急自動ブレーキや横滑り防止装置、電子制御式電動パワーステアリングなどが搭載され、数多くのセンサーやアクチュエーターが装着される。センサーの情報を多種多様に組み合わせてアクチュエーターを操れば、コンピューターのCPUを見直す程度で、路面などの走行状態に適した最適な車両制御が相当綿密に行える。いろいろな分野でソフトウェアが重要になった。
クルマ好きの視点から見た時はどうなるか。トヨタとスバルの提携では、水平対向エンジンを搭載するスポーツカーとして、トヨタ86とスバルBRZの姉妹車が生まれた。日産と三菱の提携からは、軽自動車の日産 デイズ&三菱 eKワゴン/日産 デイズルークス&三菱 eKスペースが開発されている。スポーツカーは販売台数が限られ、軽自動車は1台当たりの粗利が安い。いずれも採算性の悪いカテゴリーだから、提携関係を生かした開発と製造が行われる。
つまり電気自動車なども含めて、1つのメーカーだけでは成り立ちにくい商品でも、複数のメーカーが提携すれば実現しやすい。次期トヨタ スープラとBMW Z4も、プラットフォームは共通だ。ダイハツとスズキが軽自動車開発で手を組むとは考えにくいが、仮に提携すれば、独自のプラットフォームを使ったホンダ S660のようなスポーツカーも開発しやすくなるだろう。
このような提携は、規模の大小を問わず必要に応じて行われる。成功しなかったが、マツダ アクセラはトヨタのハイブリッドシステムを搭載しており、リチウムイオン電池やユニットの共通化も可能だ。
業務提携が与えるメリットとデメリット
提携は危機管理にも役立つ。1975年にスズキが排出ガス規制の対応に困窮した時、トヨタの仲介により、ダイハツから一時的に軽自動車用エンジンの供給を受けたことがある。万一の事態が生じた時、提携関係が結ばれていれば、互いの助け合いがスムーズに行える。
逆に提携が進みすぎると弊害も心配される。極端なことをいえば、日本の自動車メーカーを1つに集約するようなやり方だ。エンジンやプラットフォームの数が大幅に抑えられ、開発と製造のコストを大幅に節約できるが、ユーザーの実質的な選択肢が減って競争関係も薄れる。やがて商品力も下がってしまう。
例えば軽トラックも以前は車種が豊富で、スバルが自社開発したサンバーなどは評判も高かったが、今はスズキ キャリイとその姉妹車、ダイハツ ハイゼットトラックとその姉妹車のみになった。軽トラックは実質2車種しか選べない。
従って業務提携による合理化を進めながら、メーカー同士の競争と商品の個性を保つ必要がある。特にクルマは嗜好品的な性格が伴うため、個性化が損なわれると、市場全体の魅力が下がりかねない。業務提携はさまざまな可能性を生み出すが、商品開発では難しい面もある。
[筆者:渡辺陽一郎]
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